本屋の本棚
本屋の棚からは活きのいい本が飛び出している。
半分嘘です。
新書や文庫といった小さめの本の話をする。
本屋の棚から本が飛び出しているのは、その本が一度誰かの手に取られ、戻されたから、というふうに簡単に考えてはいけない。
観察すると、一冊を手に取るときにはその周りの本もついてくることがあり、そのあと元に戻すと、周りがあまり戻らないせいで、取っていない本だけが飛び出して残る場合もあるとわかる。
取られていない本が飛び出している場合もあると分かれば、スタートラインに立つことができる。[何の?]
これで、手に取られた本とそうではない本の違いが、ある程度は見るだけで分かる。
そしてそこから、ほんの少しのずれ、差異が眼につくようになる。
そこから、丁寧に本をもどす人、何を手に取ったのかを隠す人が持った本を知れる。
ここまで書いて、自分がなにを欲望していたかが分かった。
手に取った本を隠蔽し、それでいて他人のそれは見たい。
ある種の「覗き」趣味である。
「覗き」とは、自分はそれを知っているが、他人は「知られている」ということ自体を知らない、そういう状態である。
全く知らない他人が選んだ(選びかけた)ものに興味がある。
他人の考えている事は分からない。でも、明らかに自分と異なっているのはわかる。
自分が「おっ」と手に取る、そんなはずはない本が飛び出していると、「他者!」と思う。
このとき、気づかれたくない自分が動き出し、より自然な状態へと本を戻す(たまにそれは不自然な程に自然であったりもする)。
さもしい話だった……