探針

ものの見え方をふやしたい

一人称複数の失敗

中学から高校まで、個人塾に通っていた。高校生だったある日、先生は別の生徒に現代文を教えていた。新聞の人生相談を使って、相談者の気持ちをその文章から考えさせていた。面白そうだったので首を突っ込んだ。細かい内容は忘れたけれど、相談者の年齢は同…

褪せる私信

千駄ヶ谷駅のカフェはチェーン店なのに内装がほかよりいいのでわざわざ電車に乗ってまできてしまう。金曜日の夕方はたいていそこにいる。 習慣が根づいてくると、意識は自然、遠い時間へ向かう。 もはや希望はない。冷凍庫に大事にしまっていた時計を取り出…

共犯をもう一度

『秒速5センチメートル』を初めてみたのは2018年の正月の夜中、祖父の家で見た記憶がある。『君の名は。』が地上波で初放映されるからその広告として放映されていたのを見た。ネットの評判通り確かに面白かった。ハッピーエンドから程遠い物語をどこかで求め…

平日

クリスマスが終わると、年末の鬨の声がそこら中で始まる。せめて2-3日だけ待ってくれないだろうか。クリスマスと「年末」というイベントがシームレスに繋がってしまって、普通の今年の日がいつのまにか、身構える前に終わってしまった。 24日に「今年もあと…

プレゼント

今年の1月2日の夜は東京湾の上で過ごした。竹芝客船ターミナルから出ている、さるびあ丸に乗船して伊豆大島へ日帰りで行った。正月で帰省してくる高校の知り合い(友人)一人と連れ立って「東京のラクダ」を見るためだ。 今までに見たことのある動物を思い出し…

定時交信

南極で暮らしたいと考えていた時があった(ほとんど忘れかけていたぐらい微かに)。日々暮らしているこのあたりとは似ても似つかないし、生命の危険だってちょうどよくある。閉鎖空間で人間関係も限られているから可処分時間がふんだんにとれる。確かにちょっ…

10月4日

レストランで西洋料理を口にして、シロナガスクジラの大模型や動物園の動物を見る。入場券にキリトリ線は入っていなかった。それから少しして、家に帰る山手線の車内でそれは発生した。私たちは手を繋いでいた。自分の右手と相手の左手。利き手はお互い反対…

回想中

那須の温泉に行った帰り、高速バスの中でこれを書いている。 小旅行の醍醐味は帰りのバスや新幹線で窓の外を見ながら、回想するときだろう。疲れて眠る人もいる。それも同じことだろうと思う。 普段の生活とは時間の流れを異とする旅行から、もとの生活に戻…

親切は親を切る?

何かの本の帯に書いたあったやつ。 答えは〇〇ページに!とあったので見ないで考えることにする。 親切をするシーンから考えた。 例えば、おばあさんが道を渡るのを手伝うとき、親しく話しかけるだろう(わざとらしい導入)。 これから親切は「親しさを切る」…

本屋の本棚

本屋の棚からは活きのいい本が飛び出している。 半分嘘です。 新書や文庫といった小さめの本の話をする。 本屋の棚から本が飛び出しているのは、その本が一度誰かの手に取られ、戻されたから、というふうに簡単に考えてはいけない。 観察すると、一冊を手に…

リキッドルームはいい名前。

遠目で見たことしかないし、初めて見たときは名前を知らなかった。ただ「妙に四角くて黒い建物だな」と思ったのを憶えている。 恵比寿にある、リキッドルームというライブハウスのことである。 名前はサカナクションの曲「聴きたかったダンスミュージック、…

スープの冷たい距離

親世帯と子世帯が分かれて暮らすときにちょうどいい距離は「スープの冷めない」距離だという表現がある。 もちろん比喩だから、具体的な距離云々がある訳ではなく、付かず離れずがよいということだ。 この表現を見たとき、逆に「冷たいスープのぬるくならな…