回想中
那須の温泉に行った帰り、高速バスの中でこれを書いている。
小旅行の醍醐味は帰りのバスや新幹線で窓の外を見ながら、回想するときだろう。疲れて眠る人もいる。それも同じことだろうと思う。
普段の生活とは時間の流れを異とする旅行から、もとの生活に戻るのは、めざめることと同じである。
夢を思い出して生のまま捕まえておこうとすることに、回想することは似ている。
たいていはうまくいかない。忘れてしまう。重大なら、そもそも憶えたくなくても憶えてしまっている。
より忘れているのは思い出そうとして「いた」ときのことだ。寝ぼけつつ思い出そうとしていた自分の光景はまったく辿れない。
帰りのバスの車内では覚めながらに夢の回想をしている。窓の外のアナローグな変化を見つめるこの時間は、那須にて過ごした時間よりも早く、忘れ去られるだろう。日常/非日常の「スラッシュ」にあたる「いま」は90分しか残っていない。